睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療とは?CPAPとの違い・効果・適応を専門医が解説
睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療とは?CPAPとの違い・効果・適応を専門医が解説
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断されたけれど、CPAP(シーパップ)のマスクに抵抗がある」
「いびきがひどいと言われるけれど、できればもっと手軽な治療法を選びたい」
このようなお悩みをお持ちの方は少なくありません。
睡眠時無呼吸症候群の治療といえばCPAP療法が有名ですが、実は軽症から中等症の患者さんを中心に、「マウスピース(OA:口腔内装置)」による治療も広く行われています。
マウスピース治療は、就寝時に下顎を少し前に出した状態で固定することで、空気の通り道である上気道を広げ、いびきや無呼吸を改善する治療法です。携帯しやすく、出張や旅行が多い方でも継続しやすいというメリットがあります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群に対するマウスピース治療の仕組みや歴史、CPAPとの違い、適応となる患者さんの特徴、治療を受ける際の注意点について詳しく解説します。

マウスピース(OA)治療ってどんなもの?(歴史と種類)
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療といえば、鼻にマスクをつけて空気を送り込む「CPAP(シーパップ)療法」が有名ですが、もう一つの重要な選択肢として「マウスピース(OA:口腔内装置)治療」があります。
実はこの治療法には古い歴史があり、下顎を前に出して舌の落ち込みを防ぐという仕組みのマウスピースの原型は、なんと1934年に誕生していました。CPAPが開発された翌年の1982年には舌を前方に移動させるタイプ(TRD)が報告され、その後もさまざまな装置が開発されてきました。
現在、日本での主流は「MAD(下顎前突装置)」と呼ばれる、下顎を前方に移動させるタイプです。寝る時に下顎を少し前に出した状態で固定することで、舌が喉の奥に落ち込むのを防ぎ、空気の通り道(上気道)を広げます。これは物理的に空間を広げるだけでなく、気道周りの筋肉の活動を活発にして、気道がふさがるのを防ぐ効果もあると考えられています。 また、マウスピースには「上下一体型」と、下顎の移動量を自分で調整できる「上下分離型」があります。日本では上下一体型が保険適用の対象となりますが、保険外診療であれば分離型が提供されることもあります。下顎を前に出しすぎると顎への負担が大きくなり、少なすぎると効果が出ないため、最大移動量の50〜75%程度にバランスよく設定することが重要です。

↑治療前のレントゲン写真

↑OA装着後のレントゲン写真(下顎が前に出ている)
どんな人が対象になるの?
日本では主に、CPAP療法の保険適用基準(精密検査で1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数を示すAHIが20以上など)を満たさない、比較的症状が軽い患者さんが対象となります。簡易的な検査で1時間あたりの呼吸イベント(REI)が5回以上あり、いびきや日中の眠気などの症状があれば、保険適用で治療を受けることができます。
データによると、比較的AHIが低く、肥満ではない方、若年の患者さん、そして女性の患者さんには、マウスピース治療が有効に働きやすいと言われています。 また、症状が重い場合でも、「どうしてもCPAPのマスクに慣れることができない」「出張が多くて機器を毎日持ち歩くのが難しい」といった人にとっては、治療を諦めないための有力な第二の選択肢となります。
マウスピースのメリットと気をつけたい副作
最大のメリットは、コンパクトで持ち運び(携行性)が簡単であることです。旅行や出張先でも手軽に使えるため、毎晩継続して使いやすいという特徴があります。実際に、毎晩の「使用時間」という点では、CPAP療法よりもマウスピース治療の方が継続しやすい(アドヒアランスに優れている)という報告も多くあります。
また、日中の眠気を改善するかどうかという点でも、CPAP療法と遜色ない結果が得られることがあります。 一方で、呼吸が止まる現象そのものを確実に防ぐ効果については、CPAP療法に比べると劣る面があり、患者さんによって効果に個人差(ばらつき)が出やすいというデメリットもあります。
さらに、副作用にも注意が必要です。使い始めの短期的には、唾液が増えたり減ったりすることによる口の乾燥、歯や顎の痛み、朝起きたときのかみ合わせの違和感などが出ることがあります(これらは次第に慣れていくことが多いです)。しかし、長期間使い続けると、歯並びが元に戻らなくなる「不可逆的な歯列の移動」が起こる可能性もあります。この歯の動きは、使用年月や下顎を前に出す量によっても変わるため、事前にしっかりと説明を受け、歯科医による定期的なチェックを受けることが極めて重要です。
治療を始めるには?「医科」と「歯科」の連携が鍵
「マウスピースを作りたいから、近所の歯医者さんに行こう」と思うかもしれませんが、歯科だけでこの治療を始めることはできません。日本では、まずは内科や耳鼻咽喉科、睡眠専門のクリニックなどの「医科」を受診し、睡眠の検査を受けて診断を出してもらうというルールになっています。
その診断結果をもとに「歯科」を紹介してもらうのですが、実は睡眠時無呼吸症候群用のマウスピース作製に対応している歯科医院は、全国どこにでもあるわけではありません。睡眠専門の医療機関から紹介を受けたり、日本睡眠学会や日本睡眠歯科学会の認定医・専門医リストを活用して探すことが推奨されます。
無事にマウスピースを作った後も、呼吸状態が本当に改善したかの効果判定や、SASに合併しやすい高血圧などの生活習慣病の管理は「医科」で、歯並びや顎の定期チェックは「歯科」で行うという、医療機関同士のスムーズな連携が欠かせません。
OA作成が可能な歯科医の探し方
睡眠時無呼吸症候群(OSA)の治療に用いるマウスピース(OA)を作製できる歯科医院は限られており、ご自身で見つけるのが難しい現状があります。OA作製が可能な歯科医を探すための主な方法は以下の通りです。
● 専門学会のリストを活用する 「日本睡眠学会」のホームページに掲載されている睡眠歯科の認定医・専門医リストや、「日本睡眠歯科学会」の認定医・指導医リストから探すことができます。
https://jadsm.jp/ippan/ninteii_shidoui.html
● 地域の睡眠専門医療機関に相談する お近くの「日本睡眠学会専門医療機関」に問い合わせるのも有効な一策です。その施設自体に歯科が併設されていなくても、近隣の対応可能な連携歯科医院を紹介してもらうことができます。
なお、歯科医院を直接受診しても単独でOSAの検査や診断をすることはできないため、患者さんにとっては一手間かかるかもしれませんが、まずは睡眠を専門とする医療機関(医科)を受診し、診断を受けた上で適切な歯科医へつないでもらうのが最も確実でスムーズな方法です。
ライフスタイルに合わせたCPAPとの「併用」という道
実は、CPAPとマウスピースを「併用」するという柔軟な使い方も可能です。これには大きく分けて2つの意味があります。 1つ目は、「同時に装着する」方法です。マウスピースを口にはめた上でCPAPの鼻マスクをつけると、下顎が前に出ているおかげでCPAPの空気の圧力を下げることができます。高すぎる圧力で夜中に目が覚めてしまう人にとっては、快適に眠れるようになる有効な手段です。
また、口にマウスピースを入れていることで、寝ている間に口が開いて空気が漏れてしまうのを防ぐ効果もあります。 2つ目は、「日によって使い分ける」方法です。普段は自宅でしっかりCPAPを使い、出張や外泊の日には携行性の高いマウスピースだけを持っていくという使い方です。中には、「翌日の予定の都合で、鼻にマスクの跡をつけたくない」という理由でマウスピースを選ぶ人もいます。最終的な目的は、毎日何らかの形で治療を継続することですので、ライフスタイルに合わせて柔軟に組み合わせることが大切です。
まとめ
マウスピース(OA)治療は、手軽で続けやすい一方で、効果に個人差があり、歯並びへの影響にも気をつける必要があります。自分勝手にやめたり放置したりせず、医科と歯科の両方で定期的なサポートを受けることが成功の秘訣です。いびきや日中の眠気でお悩みの方、あるいは今の治療がうまくいっていない方は、ぜひ睡眠の専門機関やかかりつけの医師に相談してみてください。
◉睡眠時無呼吸症候群について、よくいただくご質問はこちらをご確認ください。
→よくある質問
◉睡眠時無呼吸症候群についてさらに詳しい内容はこちらをご覧ください。
→神戸元町呼吸器内科・アレルギークリニック
◉睡眠時無呼吸症候群に関する詳しい情報は 厚生労働省公式ページ をご参照ください。
