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睡眠時無呼吸症候群(SAS)治療の現状と「痩せる薬」への期待

睡眠時無呼吸症候群(SAS)治療の現状と「痩せる薬」への期待

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間に空気の通り道がふさがり、呼吸が止まってしまう病気です。放置すると高血圧、心筋梗塞、脳卒中などの重大な心血管疾患のリスクが高まるため、鼻にマスクをつけて空気を送り込む「CPAP(シーパップ)療法」が標準的な治療として広く行われています。

CPAPは上手く使えたら使用開始したその日から無呼吸をほぼ確実に防ぐ非常に優れた治療ですが、あくまで対処療法であり、根本的な解決には「最大の原因である肥満の解消(減量)」が不可欠です。 しかし、「痩せれば良くなると分かっていても、食事や運動などの生活習慣改善だけで大幅な体重減少を長期間維持するのは非常に難しい」という大きな壁がありました。そこに近年、画期的な変化が起きています。

肥満症の治療薬である「GLP-1受容体作動薬」や、さらに強力なインクレチン関連薬(いわゆる「痩せる薬」)が、体重減少を通じてSASの重症度を劇的に改善させることが分かってきたのです。そして日本でも、2026年4月24日に厚生労働省の薬事審議会にて、ゼップバウンドの「中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群」に対する適応追加が議論される予定であり、近い将来、保険適用での根本治療が可能になる可能性が高まっています。

生活習慣だけでの減量は難しいと感じている男性

驚異的な効果を示した新薬「ゼップバウンド」とSURMOUNT-OSA試験

中でも現在、世界中で最も熱い視線を集めているのが、「ゼップバウンド(一般名:チルゼパチド)」という持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。 「ゼップバウンド」という薬品名ではあまり聞き馴染みがないかもしれませんが、「マンジャロ」という薬は聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。なんと、「ゼップバウンド」と「マンジャロ」はどちらも「チルチバチド」という成分であり、中身は全く同じ注射薬なのです。

2024年に米国の権威ある医学誌『The New England Journal of Medicine(NEJM)』に、肥満を伴う中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者を対象とした「SURMOUNT-OSA試験」の結果が発表されました。この試験では、患者を「CPAPを使用していない群」と「すでにCPAPを使用している群」に分け、ゼップバウンドを52週間(1年間)投与しました。 その結果は驚くべきものでした。1年後、重症度を示す無呼吸低呼吸指数(AHI:1時間あたりの呼吸が止まる回数)は、偽薬(プラセボ)を使ったグループと比べて1時間あたり約20回以上も少なくなり、全体としてAHIがほぼ半減(CPAP使用群では平均56%も低減)したのです。

同時に、体重も平均して16~17%減少し、収縮期血圧や睡眠中の低酸素の負担も著明に改善しました。 この結果を受け、NEJM誌の論評では「睡眠時無呼吸治療の新時代に突入した」と絶賛され、米国では2024年12月にFDA(食品医薬品局)が「肥満を伴う中等症以上のOSA」に対する初の薬物療法としてゼップバウンドを正式に承認しました。一部の患者では症状が劇的に改善し、「薬物療法と減量によって、将来的にCPAPから離脱できる(CPAPを卒業できる)」可能性すら示唆されています。

日本でもゼップバウンドがSASの保険治療に使えるようになる?

日本でも、この画期的な新薬をSAS治療の新たな柱として使えるようにするための動きが急ピッチで進んでいます。 2026年4月24日に開催される厚生労働省の薬事審議会・医薬品第一部会において、日本イーライリリーのゼップバウンドに対して、「中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)。ただし、BMIが27kg/m2以上に該当する場合に限る」という効能を追加することが審議される予定です。

現在、日本でSASの適応を持つ医薬品は日中の眠気を改善するモディオダール錠などに限られており、無呼吸そのものを改善する薬はありません。今回の審議で承認されれば、日本でも近い将来、保険適用でゼップバウンドをSASの根本的な治療薬として処方できるようになる可能性が非常に高まっています。

実用化に向けて「まだ不透明な点(今後の議論の的)」

新しい強力な薬が保険適用になるときには、安全かつ適切に使うための「厳格なルール」が国によって定められます。ゼップバウンドがSASに使えるようになることは患者さんにとって大きな朗報ですが、日本の実際の医療現場でどのように処方されるかについては、現時点ではまだ不透明な点が多く残されており、今後のルール整備が注目されています。

  • 1. 診断には詳しい「PSG検査」が必須となるか?
    自宅で手軽にできる「簡易モニター」の検査結果だけで高額な新薬を処方できるのか、それとも一泊入院して脳波などを測る精密な「PSG検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)」による確定診断が義務付けられるのかは未定です。

  • 2. 処方できる施設や医師に「専門医縛り」はあるか?
    現在、日本で一部の肥満症治療薬を保険処方する際には、「教育研修施設」に認定された病院でしか処方できなかったり、専門医しか処方できなかったりする厳しい制限(施設基準・専門医縛り)があります。ゼップバウンドのSAS治療への応用でも、適切な流通と安全管理のために同様の厳しい縛りが設けられるかが焦点となります。

  • 3. 「BMI要件」と事前の「減量指導」の期間はどうなるか?
    今回の審議では「BMI 27kg/m2以上」が条件とされていますが、薬を使う前に「まずは自力での食事指導や運動指導(栄養指導)を〇ヶ月間続けなければならない」といった前提条件が設定される可能性があります。

  • 4. 最大使用期間の制限
    この薬を何年、あるいは何ヶ月まで使い続けることができるのか、期限が設けられるのかも注目されます。

  • 5. CPAP治療との「併用」は認められるか?
    米国の試験では、CPAPを使用中の患者さんがゼップバウンドを追加で使っても高い効果が出ました。しかし日本の保険制度では、「CPAP治療(在宅医療)」と「高額な新薬の処方」の費用を同時に(併用して)請求できるのかという、医療経済・制度上の高いハードルが存在します。

  • 6. 減量後の「AHI再検査」は義務付けられるか?
    薬で体重が減った後に、実際にAHI(無呼吸の回数)がどれくらい改善したか、あるいはCPAPを外しても大丈夫なレベルになったかを確認するための再検査(PSG検査など)を定期的に行うことが必須ルールとなるかもしれません。

  • 7. CPAP適応のない「中等症(AHI15〜20)」への処方は可能か?
    日本では現在、CPAPの保険適用基準はAHIが20以上(簡易モニターでは40以上など)と厳しく設定されています。今回のゼップバウンドの審議対象は「中等症以上(AHI15以上)」です。つまり、「SASの診断はつくけれど、CPAPの保険適応には届かない程度の重症度(AHI15〜20程度)」の患者さんに対して、ゼップバウンドを第一選択の治療として処方できるようになるのかが、現場の医師にとっても大きなポイントです。

まとめ

ゼップバウンドの保険適用にあたっては、検査の要件や処方ルールの詳細など、まだクリアにされていない不透明な部分が多くあります。しかし、これまでCPAPやマウスピースなどの機器による対処療法に頼るしかなかったSAS治療において、根本的な原因である「肥満」に強力にアプローチできる画期的な新しい治療法が提示されることは間違いありません。

ルール整備には少し時間がかかるかもしれませんが、近い将来、日本の患者さんにとっても「薬によるSASの改善」や「CPAPからの離脱」という新たな選択肢が提供できるようになることが強く期待されています。

【参考文献・参考資料】

1. SURMOUNT-OSA試験(ゼップバウンドのSASに対する第3相試験) Malhotra A, Grunstein RR, Fietze I, et al. Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity. N Engl J Med. 2024;391:1193-1205.

2. SURMOUNT-OSA試験に関する論評(SAS治療の新時代) Patel SR. Entering a New Era in Sleep-Apnea Treatment. N Engl J Med. 2024;391:1248-1249.

3. 日本におけるゼップバウンドのSAS適応追加に関する薬事審議会情報 厚生労働省 薬事審議会・医薬品第一部会(2026年4月24日開催予定)審議予定品目「ゼップバウンド皮下注(中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群)」に関する報道または公開資料

4. 肥満関連OSAに対するGLP-1受容体作動薬の系統的レビュー Yang R, Zhang L, Guo J, et al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists for obstructive sleep apnea in patients with obesity and type 2 diabetes: A systematic review and meta-analysis. J Transl Med. 2025;23(1):389.

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◉睡眠時無呼吸症候群に関する詳しい情報は 厚生労働省公式ページ をご参照ください。

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